流水が作った土地


 「雨が降ると、山が無くなる」

 そんな馬鹿な、そんなことは有り得ない、と思う人もいるかもしれません。それでは、簡単な実験をしてみましょう。

ホースで水を出します。ホースの先をつぶすと勢い良く水が出ますね。その水を地面に向けてみましょう。地面はどうなりますか?水の勢いで削られて穴が開いていきますね。水というのは結構な力持ちで、地面を削る力があるのです。

今度は砂で山を作ってみます。今度は普通の水の勢いで、作った山の上から水をかけていきます。すると砂で作った山はどんどん小さくなり、最後には平らになってしまいます。流された砂は、水といっしょに流されて別の場所に動いていったはずです。水はこのように削った砂や土、石などを流して運ぶ力ももっています。

「砂場で作った山のことだったのか、それなら当たり前だよ」

 ところが、これは私たちが住んでいる地球上でも実際に起こっていることなのです。

 激しい雨が降ると、川の水が増水して茶色くなっているのを見たことがありませんか。台風が来て短い時間に大量の雨が降ると川は周りの土や岩などを削り、川の下流へと運んでいきます。運ばれた土砂は流れがゆるいところに溜まり、高くなります。すると川は流れることができなくなるので、蛇のように流れる場所を変えていくのです。

 現在の日本の川は、ダムが作られたり、護岸整備をしたりして、こうした川の氾濫は少なくなりましたが、人間が登場する前の地球上では当たり前のことでした。激しい雨が降り、水に削られて出来た土地、削られた土砂が流され、堆積して出来た土地、日本各地にはこうしてできた土地がたくさんあります。

 岩手県胆沢地方に胆沢扇状地と呼ばれている地形があります。扇状地とは「扇の形をした土地」という意味です。ちょうど扇を開いたような形になっているのですが、どうしてこのような形になっているのでしょうか。

 これは、奥羽山脈から流れてくる胆沢川が作った形なのです。胆沢川は奥羽山脈から流れ出し、北上川へと流れつきます。激しい雨の時などは土砂を削ったり、土砂を堆積させたりしながら流れる場所を変えてきました。現在は水沢市の北側を流れていますが、その昔は水沢市の南側を流れていたようです。この胆沢川が作った胆沢扇状地は、その扇の一辺が約20km、面積が20000haにも及ぶ国内最大級の扇状地です。

 扇状地の他にも、流水が作った土地があります。河岸段丘と呼ばれるものです。流水が土地を削ることによってできる、段状の土地のことをいいます。実は胆沢扇状地は河岸段丘にもなっていて、6つの河岸段丘で構成されている珍しい扇状地なのです。

 さて、最初に書いた、

 「雨が降ると、山が無くなる」

という話ですが、「どんなに雨が降っても山が無くなった、という話を聞いたことがない」と思っている人もまだいるかもしれません。確かにそう簡単に山は無くなりません。山の土砂が流れないようにしっかり守っているものがあるからです。それは緑のダムとも呼ばれている森林です。森林があるからこそ、それほど多くの土砂が流されないで済んでいるのです。もし、森林が無くなったら・・・。「山が無くなる」というのも大げさな話ではないかもしれません。

おもしろ理科小話A宇宙と生き物の世界(星の環会)20043月 Hideyuki Miura

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