「もやし」の栽培と食

三浦 秀行


1 「もやし」を教材化する

(1)はじめに

今、この原稿を執筆しているのは、平成18年になって間もない頃です。今年の冬は、次から次に襲ってくる寒波により、日本中が例年にない大雪の影響を受けています。その一つが野菜の高騰です。大雪による作況の悪さに加えて交通機関にも悪影響が出ているため、慢性的な野菜の高騰が続いています。価格を抑えるために、緊急に外国の野菜を輸入しているという話もあります。

しかし、そんな状況の中でも安定した値段の野菜があります。その野菜とは・・・もやしです。もやしは安価で、しかも安定した供給がなされるので、野菜が高騰している今のような現状においても、安心して購入することができる野菜の一つです。しかも、安いだけでなく栄養面でも優れた野菜だということが知られています。他の野菜に比べて多量のタンパク質を含んでいますし、ビタミンC、アスパラギン酸、カルシウム、鉄分、食物繊維、ミネラル、ビタミンB1の含有量が豊富で生命に欠かせない養分が豊富に含まれているのです。

ところで、そんな栄養価にも優れて安価な野菜「もやし」ですが、どのように作られているかご存知でしょうか。この原稿をご覧になっている方はもちろんご存知でしょうが、子どもたちに同じ質問をすると、答えられない児童が多いことに気づかされます。

(2)「もやし」を教材化するメリット

日光に当てないで、種の中の養分だけで育てたものをもやしといいます。その中でも特にソラマメや大豆を用いて作ったもやしを豆もやしと呼ぶようです。ひょろひょろした子供のことを「もやしっ子」などと呼ぶこともありますが、もやしはひょろひょろどころか、植物の生命力あふれる栄養満点の健康食品であることは先に述べたとおりです。日光に当てないで育てるので、室内で短期間に育てることができます。スーパーなどで売られているもやしは、工場で生産されているので天候の影響も受けず、今年のような大雪の中でも安定した供給ができるのです。

 このメリットはそのまま教材化のメリットにつながります。
・ 気候に左右されないので、一年中いつでも栽培できる。
・ 畑を必要としないので、教室の中でも栽培できる。
・ 完成まで1週間程度なので、児童の興味関心が途切れない。
・ 短い期間で取り組む小単元として活用できる。
・ 料理法が多様でおいしい。

もちろん、デメリットもあります。

・ こまめな管理が必要。
・ 大量な収穫は難しい。

それでもメリットの方が多いと思われます。

2 「もやし」の作り方

スーパーなどでよく見かけるもやしは、リョクトウやブラックマッペという豆を使ったものが主流ですが、家庭でも簡単に入手できる大豆を使って、もやしを栽培する方法を紹介します。栽培はとても簡単です。室温が一定であれば、わずか1週間程度で収穫できます。もやしが成長する様子を観察することで、きっと植物の生命の力強さを実感することができると思います。

○準備するもの

大豆(種類は何でもよいが、食用のもの。栽培のための種にするものは食用にならないので注意。スーパーなどにおいてあります。)

いちごパック2個、ティッシュペーパー、ダンボール箱、霧吹き


【写真1】大豆はスーパーで手に入ります。

○栽培のしかた

@ 大豆をよく洗います。流水に10分位

さらして滅菌します。

A よく洗った大豆を一晩水につけます。



【写真2】一晩給水させた大豆

B もやしを育てる容器はイチゴパックを使います。2つのうち1つは、底に水がたまらないように直径5mm位の穴をたくさん開けておきます。

もう1つのパックは受皿にします。(実はこの容器は、何でも良いのですが、イチゴパックは透明なので観察に適していると思われます。発砲スチロールのトレイ、カップラーメンの入れ物でも良いですが、よく洗って雑菌がついていない状態にするところがポイントです。)

C 穴を開けたイチゴパックにティッシュペーパーを敷き、水で濡らします。


【図1】もやしを育てる容器

D 一晩水につけておいた大豆の中から、傷がついている豆や色が悪い豆を取り除きます。これを怠ると、カビが生えたり枯れたりして、食用にならなくなってしまいます。選んだ豆は、重ならないようにティッシュの上に並べます。この時、指でおくよりも清潔なピンセットや箸などを使って、なるべく雑菌がつかないようにします。

E 1日に2、3回霧吹きで水を与えます。乾きすぎず、水に浸しすぎず、あたかも大豆が土の中にいるような気持ちにさせるのがコツです。そして、1番肝心なのが真っ暗な場所に置くこと。ダンボール箱などをかぶせても良いでしょう。ただし、決して光が入らないようにします。


【図2】容器を暗い所に置く

F 大豆は20℃から25℃前後で発芽するとされるので、あとは温度と水の管理をすれば、1日で根が伸び始め、1週間もすれば立派なもやしが出来上がります。うまく栽培することができたら、油炒めや味噌汁の具にしていただきましょう。


【写真3】2日目の様子 幼根が出てくる



【写真4】7日目の様子 ちょうど食べ頃

3 その他の「もやし」の作り方

 最初にも述べましたが、スーパーでよく見かけるもやしはリョクトウやブラックマッペという豆のもやしです。また、もやしとはちょっと違いますが、芽物野菜といって、種から発芽したばかりの芽を食品にするものもあります。例えば、カイワレダイコンがそれにあたります。最近はカイワレダイコンだけでなく、ブロッコリーやソバなどの芽物野菜もスーパーで見かけることが多くなりました。

 これらの種は、スプラウト用の種として販売されています。大豆以外にも挑戦してみるのも楽しいでしょう。ちなみに、中原採種場

(http://www.nakahara-seed.co.jp/online_catalog/spraut/spraut.php)のホームページではスプラウト用の種を通信販売しています。

そこでは、次の様な種類の種が販売されています。

・ カイワレダイコン
・ ブロッコリー
・ 胡椒草
・ ルッコラ
・ ヒマワリ
・ マスタード
・ ソバ
・ エンドウマメ
・ ヒマワリ
・ レッドキャベツ
・ アルファルファ
・ グリーンマッペ(リョクトウ)
などなど

もやしの作り方も、広口びんを使った方法などもあります。いろいろ試して、自分にあった方法で栽培してみるとよいと思います。

○観察のポイント

@ 吸水させる前後の大豆を比較してみます。大豆は水を吸うことによって、眠っていた状態から目を覚まし、生命活動をスタートさせます。吸水した大豆は、わずか数時間の間にもとの大きさの約2倍の大きさになり、根になる部分(幼根)を出そうとします。




【写真5】元の大豆(右)と給水した大豆(左)

B もやしを上手に育てられるようになったら、かぶせるダンボールの横に直径2〜3cmの穴を開けてみます。するともやしは光の入る穴の方向に伸びようとします。





【図3】光の方向にのびるもやし

これは、植物の生長を促すオーキシンという植物ホルモンの影響です。オーキシンは芽の先端で作られ、光の当たる反対側の茎に多く送られ、その部分の成長が速くなります。だから、光の方向を向いているように伸びていくのです。

4 おわりに

 これまで紹介してきたように、もやしはとても手軽につくることができます。栽培から収穫、調理するまで、すべて自分の手で経験させることにより、子どもたちの食に対する意識も少しは変わってくるのではないかと思います。そして、実際にやってみると分かると思いますが、もやしづくりはとても楽しいのです。「学校の授業で取り組まなくては・・・」なんて考える前に、自宅で楽しみながら栽培してみてください。そして、栽培したものをおいしくいただいてみましょう。きっと楽しさを実感してもらえると思います。その楽しみを子どもたちにも伝えてあげて欲しいと思います。栽培の楽しさが分かると、他の野菜や果物なども栽培してみたいな・・・という気持ちがきっと沸いてくることと思います。  


食育―学校でつくる食生活の基礎・基本4 「食材づくりと食育の話材」(明治図書) 2006年12月26日刊行 Hideyuki Miura

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