「植物の発芽と成長」


                 三浦 秀行

○はじめに

 今時の子どもたちは、植物の種をまいたり、育てたりする経験が少ないと思われる。子どもたちは、5年生までにアサガオやホウセンカ、ヘチマなどの栽培活動を学校で行ってきているが、普段の生活の中で植物と深く関わることが、あまり無いのはないだろうか。(もちろん、親子でガーデニングや家庭菜園などを楽しんでいる、という場合もあるだろうが・・・)実際に植物を育てたいと思っても、場所の問題があったり、季節や気温などの影響があったりするために、なかなか気軽に植物栽培ができないのが現状であろう。そこで、簡単な野菜を栽培して子どもの興味を引き出し、植物の発芽や成長についての学習に導いていく、という方法を提案してみたい。その簡単な野菜とは・・・もやしである。

○なぜもやしなのか?

 教科書では、いきなり「発芽に必要な条件はなにか」という課題から授業が始まる。植物が発芽する様子を見たことがない子どもたちに、この課題をいきなり提示するのはどうだろうか。これまでの栽培活動では、土の中で芽が出始めているのだから、発芽の様子を見たことがある子どもは少ないはずである。教科書では「適度な温度、水、空気」が発芽の条件とまとめてあるが、子どもたちは「土」や「日光」が必要条件だと答える場合が多い。だから、この「土」や「日光」が発芽に必要だ、という概念をまず取り払わなければならない。
 理科の授業時数だけでは時間が足りなくなるので、総合とリンクさせた授業展開を考え、ぜひ「もやし作り」を発芽の学習の前に取り入れてみたいと思うのである。

○もやしの作り方

スーパーなどでよく見かけるもやしは、リョクトウやブラックマッペという豆を使ったものが主流だが、家庭でも簡単に入手できる大豆を使って、もやしを栽培する方法をここでは紹介する。栽培はとても簡単である。室温が一定であれば、わずか1週間程度で収穫できる。

【準備するもの】

大豆(種類は何でもよいが、食用のもの。栽培のための種にするものは薬品処理している場合があり、食用にならないことがあるので注意。食用はスーパーなどにおいてある。)

いちごパック2個、ティッシュペーパー、ダンボール箱、霧吹き

【栽培のしかた】

@ 大豆をよく洗う。流水に10分位さらして滅菌する。

A よく洗った大豆を一晩水につける。

B もやしを育てる容器はイチゴパックを使う。2つのうち1つは、底に水がたまらないように直径5mm位の穴をたくさん開けておく。

もう1つのパックは受皿にする。(実はこの容器は、何でも良いのだが、イチゴパックは透明なので観察に適していると思わるので使用した。発砲スチロールのトレイ、カップラーメンの入れ物でも良いが、よく洗って雑菌がついていない状態にするところがポイントである。)

C 穴を開けたイチゴパックにティッシュペーパーを敷き、水で濡らす。

D 一晩水につけておいた大豆の中から、傷がついている豆や色が悪い豆を取り除く。これを怠ると、カビが生えたり枯れたりして、食用にならなくなってしまう。選んだ豆は、重ならないようにティッシュの上に並べる。この時、指でおくよりも清潔なピンセットや箸などを使って、なるべく雑菌がつかないようにする。

E 1日に2、3回霧吹きで水を与える。乾きすぎず、水に浸しすぎず、あたかも大豆が土の中にいるような気持ちにさせるのがコツである。そして、1番肝心なのが真っ暗な場所に置くこと。ダンボール箱などをかぶせても良いであろう。ただし、決して光が入らないようにする。

 大豆は20℃から25℃前後で発芽するとされるので、あとは温度と水の管理をすれば、1日で根が伸び始め、1週間もすれば立派なもやしが出来上がる。うまく栽培することができたら、油炒めや味噌汁の具にして食べてみるのも楽しい活動になるだろう。

もやしの作り方は、広口びんを使った方法などもある。いろいろ試して、自分にあった方法で栽培してみるとよい。

○授業の流れ

 もやし作りを経験してきた子どもたちは、植物の発芽に土や日光は必要が無いことを知っている。だから、最初から「適度な温度、水、空気」に絞り込んで考えさせることができるのである。

 ところが、実際の授業で子どもたちに発芽の条件を考えさせると、「空気」が出てこないこともある。こうした時は無理に「空気は必要かな」などと言って、条件を教師から提示する必要は無い。子どもたちから出てきた条件について、どのようにしたら解決できるかよく考えさせ、一つ一つ丁寧に実験することが大切である。

*ここではインゲンマメの種子を取り扱う。後に、発芽に使われる養分を調べる実験を行うのだが、インゲンマメでなければデンプン反応がきちんと出ないからである。もやし作りでは大豆を使ったが、大豆だとデンプンをはっきりと検出することは難しい。

【適当な温度が必要か検証させる】

「温度が低いと発芽しない」という考えをもつ子どもは多い。よって、発芽の条件を考えさせると、まず「温度」という反応が返ってくることが予想される。この実験は冷蔵庫を使って行うことになるが、冷蔵庫の中と外ではどうちがうか、子どもたちに話し合わせるとよいだろう。温度以外の条件(容器や水の量、暗さなど)に目を向けさせ、条件を統一して実験をすることの大切さを、ここでしっかり押さえさせることがポイントである。

【水が必要かどうか検証させる】

子どもたちに発芽の条件を考えさせると、「水」という答えも多く返ってくる。そこで、「すっかり水の中に入れた場合と入れなかった場合では、発芽の様子にちがいがあるか」という課題を子どもたちに提示して話し合わせる。子どもたちは「水」は必要だと思っているが、すっかり水の中に入れた状況は想定していない。そこで、この問題について十分に話し合わせてから実験に臨ませる。水の中では発芽しない、という事実を知り、子どもたちはとても驚くことであろう。

【水以外に必要な条件は何か考えさせる】

 それでは、なぜ水の中だと発芽しなかったかを考えさせる。ここで、空気の存在に気づかせるのである。(教師から「空気は発芽に必要か」などと提示してしまっては、この「気づき」が生まれない。)

「空気」が必要かどうかを確かめるための実験方法を、子どもたちに考えさせるのは難しいかもしれない。もちろん、子どもたちのアイディアをもとにして実験を進められるとよいのだが、無理ならば教師がヒントを与えてもよいだろう。空気が発芽に必要な条件かどうかを調べるには、次のような実験方法も考えられる。



 【写真】水中発芽実験の様子

エアーポンプで空気を送ると種子は発芽する。
(写真はケニス株式会社HPから転載

http://www.kenis.co.jp/onlineshop/index.php?main_page=product_info&products_id=993  )

○最後に

 今回は「発芽」の学習に焦点を当てて、もやしを導入のための教材として取り扱ったが、もう少し整理すればもっとよい活用の仕方が考えられるだろう。もっと良い実践や授業のアイディアをおもちの方は、どんどんご意見をいただきけると幸いである。この雑誌を通して、実践交流ができることを楽しみにしている。



RIKATAN(星の環会) 2007年 5月号 Hideyuki Miura

inserted by FC2 system